アカイツキ

2005/05/05 発行
残像少年 著者: 酉
耳の垂れたエルフ 著者: 那月
逃亡者 著者: 紅

残像少年  著者: 酉


 彼は毎朝遅刻ぎりぎりに抜け道を通って、学校に通っていた。
 今朝も彼が来るのを沢山の人が待っていた。仕事盛りの会社員や主婦たちが大半で、中には彼を見ようと来る観光客もいた。
 そうして待つこと数分、ある家のブロック塀を突き抜ける様にして彼が現れた。
 いや、彼が現れたときから、そこにあった家も塀も消えさり、そこは小道に変っていた。
 昔、そこは道だったのだ。
 懐かしと驚きの歓声が人の口から昇る。彼がつれてきた昔の町並みに、涙を浮かべる者さえいた。
 残像を見て人々が口々に語るのにも気付かずに、彼は道を曲がる。
 そして、林の中へと消えていった。
 とうの昔に焼け落ちた学校に通うために。

 彼の姿は町のあちらこちらで目撃されていた。
 焼け落ちた並木道、焼け落ちた商店街、焼け落ちた町並みと共に。

 人は彼を残像少年と呼んだ。


 セミの鳴き声が、住宅街を響き渡っていた。
 スーツの上着を脇にかかえ、鞄を持って男は照りつける陽射しの中、コンクリートで固められた道路を歩いていた。
 ワイシャツの袖をまくり、少しでも暑さを逃がそうとするものの今度は肌が日に焼ける。
 汗を拭うハンカチは、ぐっしょりと濡れていた。
 タオルを用意するべきだと悔やんでも、もう遅い。
 何処か木陰を探して一息つこうかと考えたとき、ふいに太陽が陰った。
 あれほど騒がしかったセミの音が止み、男の目の前を赤い紅葉の葉が、はらりと落ちてきた。
 そんな馬鹿な、と顔を上げる男の目に映ったのは、季節はずれに赤く色づいた立派な紅葉の木だった。
 いつの間に降り積もったのか、足元で落ち葉がガサリと音をたてた。
 驚き戸惑う男の脇を、誰かが走り抜けた。
 振り返ると、それは古めかしい学生服に身を包む少年の後姿が見えた。
 男は少年の向こうに広がる光景に、我が目を疑った。
 そこには、古い木造建築の家屋が並んでいた。空が広く感じるのは、背の高い建物が無いからだ。
 懐かしい、と男は思った。
 男はこの光景が過去のものなのだと、気付いていた。
 この町並みの何処かに、まだ赤子の長男を抱えた妻が居る。彼女は、家の門まで毎朝見送ってくれていた。
 そんな入社して間もない頃の思い出が、脳の中に蘇る。

 少年は通りの向こうへと駆けていく。

 彼の後を追えば、あの頃の妻に会えるだろうか。
 もう一度、やり直せるだろうか。
 いつの間にか、男の汗はひいていた。



 けたたましいセミの鳴き声。
 男はまぶしい太陽の光から、手で作ったひさしで目を庇った。
 あの立派な紅葉の木は無く、代わりにマンションが立っていた。コンクリートの道路には陽炎が昇るだけで、何処にも落ち葉は見当たらない。
 そうして男は、少年の消えて行った通りとは反対方向に歩いていった。



 少年と初めて出会った人は言う。
 あの残像の中に飛び込めば、過去に戻れる気がした。
 そうすればやり直せるのじゃないかと。

 しかし、誰も残像の後を追えた者はいなかった。


おわり


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耳の垂れたエルフ  著者: 那月


 エルフ、って言うのはね。見た目は綺麗だし、確かにどっか高慢ちきで、鼻に掛かるトコはあるモンだけどさ。怒らせなきゃ其れなりに人間の事を真っ当に考えてくれるし、一寸した事を置いて考えたら、彼等に何の文句なんて無いンだよ?
 ただ、それでも彼等とはそうそう通じ合えるってモンでも無いンじゃないかねぇ。
 いや、こんな話があるって聞いたンだけどさぁ…


 とあるエルフの里に、耳の先が丸くなっていて、しかも地に向けて垂れているってぇ珍しいエルフの少年がいたんだってさ。
 エルフの耳は空へ向いて尖り、気品に満ちあふれているモンだ! っていう他のエルフ達の考え方から、少年は勿論、疎外の対象になったし、色々陰口も言われたそうだよ。
 自分と違って普通の耳の妹だけが可愛がられたりもしていた。堪らなかっただろうねぇ。
 ……ん? エルフだから虐めや差別が無いってわけじゃないさ。
 むしろそう、基本的にどっか高慢ちきだからね。自分と違えば「おいおい」って彼等は思うンだよね。

 そりゃあ少年だって嫌だった。
 自分の耳も、それを否定する世界も全部。

 でもまぁ、何処にでも物好きは居るって言うのか、心が大らかって言うのかね。そんな耳を好きだと言ってくれる恋人がある日出来たンだと。

 彼女は枕元で「きっと貴方の耳には幸せが詰まってるのよ」って言ってくれる。
 彼女は耳元で「いつか貴方の望みを叶えてくれるのよ」って囁いてくれる。

 そんな風になってから、少年は考えを改めた、と。


 数百年後(単位? 間違ってやしないって。彼等はとんでもない長生きサンばっかだから。)青年になった彼はその恋人とは別れていたンだけれど……。

 幸せの詰ってたハズの彼の耳。何があったのやら、ものの見事に空へ向けて尖ってるときた!

 勿論人違い………いやさ、エルフ違いって事も無い。そりゃ、オトシゴロのエルフってンで、子供の頃と比べたら違うだろうが、けれどもはっきり彼その人。
 何で尖ってるのかって、そりゃ本人に聞いたら一番早いってもんで。そしたらニッコリ笑って答えてくれたらしいんだが……。

「だって、夢が詰まってたんだろ。夢が叶ったら無くなったのさ。僕の夢は普通の尖った耳になること。夢を叶えるために、整形手術したんだよ。
 確かに間違いなくぼくの夢が詰まってたし、しっかりと叶えてもくれたよね。アレがなきゃ、こんな夢なんて持ちもしなかったんだからさ。」


 と、まぁ。そう言って新しい恋人と思しきエルフと仲睦まじく歩いて行ったって事だけどねぇ。
 うん? そう、そうだろう?
 大概の奴はこの話を聞いて首を捻るか、肩竦めて呆れるかのどっちかだよ。
「エルフの考える事は、少しも理解できない」ってね。
 いや、だからって仲良く出来ないわけじゃないけどさぁ。どっか高慢ちき、って、何回言ったかわかんないけどさ。つまり、ちょっと偉そうなわけだよ。私たちの方が賢いですってトコが、無きにしも非ず、ってワケだよ。でも、そうでも無いって、やっぱ思うよねぇ? 幸せ詰ってるンなら、ずーっととっとけば良いモンをさ。

 耳の先まで垂れ下がってるなんて、そんな福耳なんざそうそう無いってもんなのにねぇ。


おわり


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逃亡者  著者: 紅


 俺が気付いたのは路地裏のゴミための中だった。
 頭が痛い。記憶がぼんやりしている。
 ふらふらと見慣れぬ町をさまよううちに、おぼろげながら昨夜のことを思い出してきた。
 俺がいつものように仕事に取り掛かろうとした時、ヤツが現れたのだ。
 ヤツの名は『リヒター』という。凄腕の殺し屋だ。
 今までにも多くの仲間が殺されていった。
 しかも、俺達を追い詰め、殺すのをまるでゲームか何かのように楽しんでやがる。
 俺達はヤツを『イェーガー狩人』と呼び、恐れていた。
「まさか、ヤツが俺を?」
 そう思う間もなく、物音も立てず近づいてくる。
 俺は逃げた。
 逃げ切れる可能性は無に等しいが、1%でも可能性があるだけマシだ。
 だが、やつは俺を見失うこともなく確実に間を詰めて来た。
 そして、見知らぬ町のビルの屋上で頭に一撃をくらい、
 そのまま階下(した)のゴミために直行、ってわけらしい。
 とりあえず、何とか家に帰ろうと歩き出す。
 家には妻と多くの子供たちが俺の帰りを待ちわびていることだろう。
 しかし、日が沈むまでに着かなければ。
 それというのも『狩人』は日が沈むと行動を開始するからだ。
 だが、帰りの道中は楽なものではなかった。
 俺の汚れた格好を見て、ガキどもが石を投げてきたり、食事をしていたら店の者に追い出されたりもした。理由も言わずにだ。
 昨夜、夢中で逃げた記憶をたどり、やっと見慣れた町に着いたのはもう日が沈もうとしている頃だった。
 俺は走った。この角を曲がれば懐かしの我が家だ。
 その時、気が緩んで警戒を怠った一瞬の間に、『狩人』は再び俺の前に姿をあらわした。
 絶望が俺の思考を止める。
 逃げようとはしたが、間に合うはずも無かった。
 ヤツは俺を確実に捉え、攻撃を加える。
 だが、俺の命はすぐには絶たれなかった。
 死ぬまでの間、じわじわとなぶられる。
 俺が死んだのを確認すると、俺の死体は『狩人』に運ばれていく。
 主人に報告するのだろう。
 しばらくあと、俺の家など比べ物にならないほど大きな家の床に俺だったものは投げ出された。
 それを見て主人が口を開く。
「リヒター、おまえの仕事は評判がいいぞ。なにせ、おまえのおかげでこの辺りからコイツらの数がだいぶ減ったからな」
 そう言うと主人は俺を蹴飛ばした。
 そして、俺の体を捨てに行く前にリヒターにもう一言かける。
「これからも頼むぞ」
 リヒターは得意そうに答えた。

「にゃーん」


おわり


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ことのは
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